望遠鏡 ケンコー125C 調整仕末記

開口効率50パーセント、スパイダーが太い、像がポヤポヤなど今ひとつ巷では評価のよくなかった変形カセグレン鏡筒。
当時のケンコーは勢いがあったと思いますが。ネットで見ると、この機種できれいな写真を写している方もいらっしゃるし・・・。
こういうのって、本当かな、どうなんだろう。と、いじってみたくなる悪い癖。と言うわけでヤフオクでジャンクを入手してみました。

まずは届いた物をじっくり観察。外観や主鏡が汚れているのは当然として、ん、副鏡が真ん中にいない。フォーカスハンドルが動かない。
(ここで無理に動かすと歯車を壊すかもと思い、力をかけずにやめておく)
ファインダー取付金具が若干外を向いている。各ネジが錆ついて簡単には回りそうにない。さすがジャンク。
(どう見ても組み立て不良で使っていた感じ)
でも、以前の所有者はこの状態で使っていたという感じなので、まずはフォーカスを動くようにしてから地上を見てみることに。

ドローチューブをはずす。
接眼部下部のラック&ピニオン部を押さえている板をはずす。え、ピニオンがラックを止めているネジの上に載っている。歯車は大丈夫。
ほんの少しつぶれているだけで、目立てヤスリで修正可能状態。無理に回さずに良かった。早速修正。
次に上部のドローチューブ調整用のイモネジを2本緩めて注意しながらゆっくりドローチューブを引き抜く。
補正レンズは汚れは少ないようだが一応清掃。ここで一度戻して覗いて見る事に。ドローを慎重に挿入し、フォーカスハンドルがスムース
に且つドローチューブが水平に動くように接眼上部にある2本のイモネジで調整。
接眼部から覗くと、ちゃんと自分の目が一つに中央に見える。?、副鏡が中央からずれているはずなので、自分の目が万華鏡のようにいく
つも見えておかしくないんだが・・・。
なぜか光軸は一応大雑把に、半ば強引に合わせているみたい。注意して見ると微妙に同心円にずれがあるが許容の範囲かと一人納得してみる。

一応地上を見てみる。
手持ちのケルナー20ミリをつけて見てみると、コントラストが無くにじんだ感じでシャープさも無い。試しに10ミリにしたら見えること
は見えるが・・・。なるほど噂どおりか。試しに、オルソの4ミリでは・・・・何も見えないに近い。
副鏡スパイダー金具のネジ部の塗装のはげ方や調整ナットを見ると動かした痕は無いし・・・。ということは、ほとんどの人はこの状態で見
え方の評価を言っていた?。

というわけで分解清掃調整をしてみることに。
主鏡、副鏡部をはずして清掃。これは、カメラレンズ等光学器械のプロが言う常識の清掃方法(ブロアー、ダスパー、某メーカーのサービスか
ら分けてもらった貴重な清掃液を使って)で。
見違えるように鏡がぴかぴかになったところで、鏡筒の内部も無水エタノールでカビ菌の消毒も兼ねて拭き清掃後再組み立て。調整をする時
の為、各部のネジは軽くだけ締めておきます。

最初に副鏡の調整。
100円ショップで薄いプラスチックのファイル入れと、油性ペンを鋏んで使える(鋏めなくてもセロテープで巻きつけて押さえればOK)コンパス
を購入。
筒全面の直径を測って筒と同じになる円を描きます。このプラスチックシートを筒の外形ときちんと合わせて載せ、動かないようにセロテー
プで押さえます。
副鏡を押さえている中央の引きネジの中心とコンパスの中心の穴が一致するようにスパイダーの3箇所の位置調製ナットで調整します。
これで副鏡の大体の中心位置が確定できます。

次に、現行のアクセサリーが使えるように接眼アダプターを24.5から31.7に交換(ビクセン製36.4→31.7AD)
これで使えるコリメーションアイピースのバリエーションが増えます。まずはFARPOINTのCheshire(チェシア)。使い方としては邪道ですがこ
ういった作業をする時はものすごく使いやすいのです。
接眼部に取り付け、覗きながら副鏡の同心円が見やすい大きさに見えるようにドローチューブを前後させて半固定、副鏡のスパイダーのナッ
ト3ヶ所を回しながら、さらにドローチューブも前後させながら、ドローの円と副鏡の円とがきれいな2重円に見えるようにします。
この時、微妙にきれいに二重にならず楕円に見える部分があれば、副鏡の3点の押しネジ(中央の引きネジもいれると4点)を動かして副鏡の向きを微調整します。
念の為、屈折やニュートン用の十字線入りコリメーションアイピースに変え、コリメーションアイピース本体の十字線の交点と、副鏡に映っ
ている十字線の交点が重なっていることを確認します。重なっていない時はさらに副鏡の向きの微調整をします。
これで接眼部と副鏡の間は光軸が取れています。あえてチェシアは使わなくとも、通常のコリメーションアイピースだけでもできますが、色
々見えてわずらわしく、見え方によっては見間違いやすいので私はあえて使い分けています。
チェシアが無くとも、十字線入りと無し(チェシアの代用)の2本があれば色々便利ですよ。但し購入金額はあまり変わらないはずです。
参考までに、チェシアに興味のある方はTELESCOPPER.JPで扱っていますので、そちらのHPをご覧下さい。
私が入手時は国際光器のコリメーションアイピースと同一価格でした。

最後に主鏡の調整です。
これは通常のニュートン式の主鏡の調整と一緒で、コリメーションアイピースで一番外側に見える主鏡の円がその他の円と同心に見えるよう
に、又偏って見えないよう接眼部外周にある3本の押しネジ、3本の引きネジの計6本のネジを微調整しながら追い込みます。

ここまでしたところで、接眼レンズに交換して景色を見てみました。
ケルナー20ミリ 驚くほどコントラストが上がり、フレアーやにじみも無くシャープになりました。但し現行のアポ屈折にはかなわないです。
ケルナー10ミリ 画像は暗くなりますが、20ミリと変わらない見え方です。
オルソ 4ミリ 画像はさらに暗くはなりますが、あるビルの事務所内に張ってある、ポスターを留めているセロテープのしわがはっきりと確
認できます。

光軸の調整がかなりいい加減だったことが実証されたような物です。これは組み立てと出荷検査した人のセンスの問題でしょうね。

各部のネジをきちんと締めて(これで又必ず少しずれますから)、さらにコリメーションアイピースで確認微調整。夜、実際の星を使い、高倍率
(5ミリ以下前後のアイピース)でピントを前後にずらした時の、ドーナッツ状の前ボケ、後ボケが同じに見えるように微調整を繰り返します。
(夜の星でしなくとも、十分見えるようになっているはずですが、より高性能を求めるならばです)
一般の市販品はどこのメーカーでもここまでは調整されて販売はされていないはず(説明書に調整の仕方が書いてあるということは、後は実践で勉強しながらやりなさいということ)ですので、ここまですれば他人の同型望遠鏡とは一線を画す高性能機になっています。

批判や評価、文句はここまでしてから言うべきです。理論とは異なる発見も多々ありますので。

言葉で書くと結構解りづらいのですが筒が短いので、腕の長さもそれほど必要とはしませんので、覗きながら作業ができます。
調整は原理を理解して行えば楽な部類にはいると思います。
筒の長さが1メートルあるニュートン筒だと調整ネジに手が届かないので足で移動、ちょっとネジを回しては又接眼部へ移動の繰り返しになるのでけっこう大変なのですが・・・。

以上、私の独断と偏見による調整法ですが、これが決して正しい方法ではありません。そのことや望遠鏡の光学と工学を御理解のうえ、試される方は自己責任でお試し下さい。
失敗しても私は責任を取れません。自分に直す腕が無かった(腕が悪かった)とあきらめていただくしかありません。
調整には他の光学系の調整法の応用をすることも必要です。
屈折系やニュートン系、シュミット系等、皆さん色々調整方法を掲載されていますので参考にすることをお勧めいたします。(私のやり方もたんにこの方達からの応用ですから)
また、ドライバーやペンチやレンチ。一番大事な調整用の冶具(コリメーションアイピース)は絶対必需品です。
某メーカーの取り説に乗っている、接眼部からただ覗いて自分の目の反射具合で見る簡単なやり方では、私が入手したこの125Cの最初の状態と同じになる確率が高くなります。 100CやSPACIA800等、同じ光学系の機種は、もちろん試す価値があると思います。
接眼部がプラスチックの機種でも変換リングを組み合わせて31.7又は2インチになるようにすれば、市販のかなりの数のアクセサリー類を組み合わせて使えるようになります。但し2インチ用の場合は重くなりすぎるとプラスチックにたわみが出て調整の意味をなさなくなりますので注意が必要です。
また、冶具の作り方を紹介しているHPもたくさんあります。そちらを参考にしてコリメーションアイピースの自作から、というのも工作からする
楽しみがあって良いのではと思います。

光軸調整する部分の無いと言われるマクストフカセグレン(MEADE-ETX、DS系やビクセンバイパー等)でも後ろの3本〜4本あるネジの締め加減で多少はできます。(3本〜4本の固定ネジの無いものは不可)
いきなり締めるのではなく、すべて緩めてから、プラスチックの接眼部構造体を多少引き抜くようにして、どのネジを締めるとこうなると、2重同
心円の変化を把握しながら一本一本少しづつ対角に締めるだけです。
これはETX105とDS-2102MARKで実証済み(フリップミラーを介した接眼部ではなく、ダイレクトに見れるフォトポートを使用して。なぜなら、フリップミラーの停止位置精度が良いとはとても思えません。上下させてから見るつどに見え方が変わりますので)です。

上記のTELESCOPPERさんで、ETXにシュミカセ用パーツが使えるようにするアダプターネジを取り扱っています。これを介してフォトビジュアルポートに付け足せば色々できます。

買ってそのまま使っているのとは違い、ある程度でも良く調整できれば、巷でうわさされていたのと大きく異なり、これって以外と高性能だったんだということにきっとなると思います。

やってみると以外と簡単、楽しいと感じるはずです。宇宙への憧れとロマンを求めて買った望遠鏡です。面倒がって何もしないのでは、星空への夢はそこで挫折です。
何事もチャレンジしないことには前へは進めませんし、頭の中の理屈と口先だけの調整をしてや人任せでは決して解決できません。自分の手で触れてやることで、初めて愛機が本来の性能を発揮するのです。但し、壊してしまっては元も子もありませんので作業は慎重に。精密機器ですから。

最初に記した、きれいな写真を写して掲載されている方々は、きちんと調整して使用しているはずです。
唯、調製方法を公開していないだけ、だと私は思っています。

次はやはり巷の噂話ではマイナーな、ミザール(MIZAR)のALTAIR-15(アルテア-15)をいじってみたいなと思っています。